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      「トカゲ」



「宇宙人はトカゲの姿をしているって聞いたんですけど、
 それって本当なんですか?」


人にはそれぞれ、他人には言えない秘密を持っているものです。
あなたにもきっとあるでしょう。
人には言えない秘密。
もしくは人に言う必要もなく、我が身だけに隠し持っているモノが。

性癖なんかもその部類に入る場合が多々ありますでしょう。

私は自分の性癖がもたらした、えもいわれない出来事を
今夜、皆様にお話したいと思います。


私のその余りに恥ずかしい性癖の部分は目をつむってもらって、
この話を聞いていただきたい。

あなたも持っているだろう、人には言えないことを
私は探りもしないし、責めもいたしません。
だから、私のことも責めないでください。

私も、この自分にまとわりついて離れない性癖を、
今夜あなた方に話すのは恥ずかしいのです。
でも、それを話さなければ、

あの、、
あの出来事を説明することが出来ないのです。

私は自分の性癖のこと、自分のひた隠しに持っていた秘密をさらけ出してでも、
あの日の出来事、
自分が感じた、この不思議な疑念を、
誰かに聞いてもらいたいのです。

それでは、話しましょう。



それは、秋の日が夕暮れにさしかかろうとした時分でした。
私は、街で買い物を済ませて家路につこうと歩いておりました。
そして、公園を横切った時のことです。
一人の女性が、公園の公衆トイレに駆け込んで行くのが見えました。

ああ、これが、
私のこの思いの始まりです。

これが私の、他人に知られたくない性癖なのです。
これが、私の業なのです。

「女子トイレを覗く事なのです。」


すいません。 すいません。

でも、約束だったでしょう。
お互い、その事には触れない約束です。
だから目をつむって下さい。
そうでしょう?
私は、この自分の恥ずかしい性癖を話さなければ、
この後に起こった、あの出来事が語れないのでございます。

まあ、あなた。

まあ、あなた。
続きを聞いてくださいな。


トイレに駆け込んだ女性の後を追って、私もトイレに入りました。

覗きとは卑怯なものです。
それは重々わかっているのです。
でも、私は、それでしか、
興奮出来ないのです。
他人には理解されにくいかもしれません。
でも、あなたにもあるでしょう?
あなたの胸の奥、お腹の底の方から、
猛烈にこみ上げてくる、えもいわれぬ感情を覚えたことが。
締め付けられるような、
猛烈に締め付けられて、頭が朦朧として、
周りも見えなくなって、目もくらくらする様な思いが。

私はこれでしかそうならないのです。

私は朦朧とした興奮の中、
それを見ていました。
見続けていました。

その、女性の豊かな丸い、つきたてもちのような、
つるんとした、でん部。

そして、その奥に見える 淡い、
美しい色をした、 女芯。

そこから溢れ出す 泉。


美しい。

美しいのです。

ああ、 ああ、

私は、恍惚の中におりました。

興奮のるつぼの中に浸っていた、その時、
その時にそれが起こったのです。

私は見たのです。
間違いなく見たのです。


その、女性の、女芯から、

ほとばしる泉の中から、

トカゲが二匹、

ピュ。ピュ。と飛び出したのです。



私は、「ハッ!」としました。

そう、「ハッ!」としたどころではありません。

怖かった?
恐ろしかった?

どうでしょう?

私は、後ろに倒れて、しりもちをつきました。


ああ、

  どうしたらいいんでしょう?


その後の事は、覚えてません。

私は、何かを叫びながら逃げ走っていた様に思います。
猛烈に走っていた様に思います。


怖かった。



あなた。

あの、トイレに駆け込んだ女は、
いったい何だったのでしょう?


宇宙人だったのでしょうか?

それともやはり、女だったのでしょうか?

私は、もう、わかりません。



    おわり
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