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    「夢」


「はい、私、パートで月給8万円いただいております。
年間で96万円ほどといったとこでございましょうか。
夫婦共働きですので、決して贅沢はできませんけど、
なんとかやっております。」

「え? 年齢ですか?
年齢は50歳でございます。
ねずみです。 早生まれの。」

「生活? 生活ですか?
はい。それなりにやっておりますよ。 はい。
不便? そうですね。
不便は、、あるといえばありますけど、、
でもね、そりゃあね、あれも欲しいこれも欲しいなど言えばきりはありませんでしょ?
まあね。
贅沢言っても、それは仕方ありません。
仕方のないことだと思っております。
そう思ってしまえば、そんなに悪くない生活だと思ってますよ。

もし、もしね。
私がですよ、
プール付きの豪華な家に住んでごらんなさい。
コサージュの付いた、ラメがたくさん入ったドレスなんて着てごらんなさい。
ディナーに大きなローストビーフなんか出てきてごらんなさい。
ああ、しんどい。
私はそれを想像しただけで、しんどくなってしまいます。
だからいいんですよ。 これで。
きっと、これがあたしの性分なんですよ。」

「え? 欲しいものですか?
はぁ、 そうですね。
欲しいものね、、 何でしょうかね?
うーん。

そうね、 そう!
バッグが欲しいわ!
あの、、、 あれよ、あれ、何て言ったかしらね?
牛皮の、、
茶色のね、、
あれ、何て言いましたっけ?
高級ブランドのバッグよ。
昨今は若い女の子も結構持ってるのをよく見かけるわ。
あの、茶色い、
ほら、
忍者が持つ手裏剣みたいなマークがたくさんついてるのあるでしょう?
あれ。
あれが欲しいわ。
あんなバッグを持って婦人会に出席したいのよ。
そうね。
それが欲しいわね。
きっと、近所の佐藤さんなんか目を丸くして聞いてくるわよ。

”それ、どうしたの?”って、
”それ、どこで買ったの?”って、
”それ、本物なの?”って。

でもね、あたし、何も返事してやらないのよ。
そして、”ふふっ”て笑顔で答えるのよ。

ほんと、目に浮かぶわ。
佐藤さんの顔が。」

「いいでしょ。」

「え? 他に?
他に欲しいものはないかって?
そうね。
うーん。

どうかしらね。

うーん。
思いつかないわねー。
これといってないかしらねぇ。」


「ねぇ、あなた、
どうして私にそんなこと聞くのよ?」


「あなたに宝くじが当たりました。
1等、三億円です。
おめでとうございます。」



   おわり

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